『【異常検知・診断ソリューション】生産設備の安定化・保安力強化に向けたクラウド型バルブ解析診断サービス』に関しての記事が月刊「計装」に掲載されました。
報道記事:月刊誌「計装」 2021年3月号
【異常検知・診断ソリューション】 生産設備の安定化・保安力強化に向けたクラウド型バルブ解析診断サービス
1.はじめに
プラントで稼働するバルブの健全性を診断する仕組みやサービスが、生産設備の安定化や保安力強化にどれだけ貢献するのかと質問されることがある。当社がバルブ診断に取り組み始めた2009年時点、筆者もメンテナンスサービスに従事していたが、その効果を理解できていなかった。今では、バルブの診断データからバルブの動作状況が把握できるようになった。また、ユーザより「バルブ動作不良を未然に防げた」や「メンテナンス最適化に使える」と多くの声をいただけている。当社の仕組みやサービスをぜひ使っていただきたいと考えている。
約12年間の積み重ねで進化させた「バルブ解析診断サービス」をさらに発展させ、クラウド型バルブ解析診断サービス「Dx※1 Valve Cloud Service」の提供を開始した。生産設備の安定化や保安力強化に対するユーザのバルブ運用課題に対してのニューノーマルな運用スタイルの提供を本稿で述べる。
2.当社のバルブ解析診断サービス
当社が提供するバルブ解析診断サービスは、当社スマート・バルブ・ポジショナ(以下、スマートポジショナ)に搭載する様々な診断パラメータを、調節弁メンテナンスサポートシステム「Valstaff」(以下、Valstaff)で診断データとして収集、Valstaffに蓄積する診断データを、当社ノウハウと組み合わせ、複合的に解析し、バルブの健全性を"健康診断"結果としてユーザへ提供するサービスである。図1は、バルブ解析診断サービスのサイクルの代表例を示す。
3.「Dx Valve Cloud Service」の概要
Dx Valve Cloud Serviceは、バルブの"健康診断"結果をクラウド環境で利用するサービスである。バルブ稼働データをクラウドに自動送信、解析するため、ユーザは「必要なトキに」「必要なカタチで」「必要なシーンで」、診断結果をクラウド環境で確認することができる。従来、日常的にバルブの健全性を確認するには、Valstaffのようなバルブ診断ツールに蓄積する診断データを、ユーザが読み解き、判断をする必要がある。本サービスではユーザがこのような負担をせずに、バルブ異常の早期発見や、異常進行予測を確認することが可能となり、生産設備の安定化や保安力強化に貢献する。(図2)
4.バルブ診断運用におけるユーザ課題
バルブ診断を持続可能な取り組みとして運用推進するには、ユーザにとって2つの課題があることがわかった。1つは、「業務負荷」、2つ目は、「診断タイミングとレベル」である。Dx Valve Cloud Serviceは、この課題を解決し支援する。次項よりその課題について述べる。
(1)業務負荷
ユーザは、生産設備の安定化を図るために、数多くの業務を担っている。その中で、バルブは生産設備における操作端末として重要な機器の1つである。バルブ健全性を把握し、設備の安定化やメンテナンス最適化を目的として診断ツールを導入している。(当社ではValstaffを提供)しかしながら、ユーザは数多くの業務負担の中、診断ツールの運用や評価をする時間を確保することができない場合が多々ある。そのため、診断ツールを導入したのはよいが、診断ツールを活用しきれないことがある。また、導入当初の担当交代や退職により、診断ツールが使われていないこともある。そして、昨今のコロナ禍により感染防止の観点から保全担当者の製造現場への出入規制がある。保全担当者もテレワークが推奨となっており、バルブの健全性をコロナ禍以前と同様に把握することが難しい環境となっている。
(2)診断タイミングとレベル
従来、当社が提供している「バルブ解析診断サービス」では、最新データによる解析が困難であった。バルブ解析診断サービスは、Valstaffに蓄積するデータを1年または半年ごとに手動収集する。収集したデータを当社内で分析・解析を行い、診断結果レポートをユーザへ提供している。そのため、診断データの収集作業から報告までに3週間から6週間を要しており、ユーザが利用したいタイミング(たとえば、メンテナンス計画策定時)にバルブ診断結果(バルブ健全性)を把握することが困難である。(図3)
また、当社では数百台の診断結果を一目で把握可能にするための、全体傾向をサマライズした「一次スクリーニング診断」、さらに詳しい内容を知るための、「詳細解析診断」の2種類のサービスレベルを提供している。(図4)
バルブ解析診断サービス提供開始当時、ユーザの要求により、2種類のサービスレベルで提供を開始した。昨今のデジタル技術の活用をユーザ内の保全部門のみならず、生産部門や事業所間へ事例を展開する取り組みをしている。ユーザは、サービスレベルに関係なくバルブ診断の提供を求め始めている。
5.Dx Valve Cloud Serviceでの課題解決
(1)「業務負荷」課題解決
Dx Valve Cloud Serviceでは、ユーザにかわってバルブの健全性を監視することを目指している。日常業務においては、ユーザがバルブの状態を気にすることなく、クラウド上で随時バルブ診断が行われている。ユーザは、「必要なトキに」、Webアプリケーションにアクセスし、診断結果と結果に対するアクションを確認できる。ユーザ自身による解析・診断作業の大幅削減を実現している。
また、ユーザ担当者が交代したとしても、Dx Valve Cloud Serviceは当社で維持管理し、次の担当者への速やかな業務移管を可能としている。さらに、Webアプリケーションでの診断結果確認は、場所を選ばず「必要なシーンで」利用が可能で、保全事務所や現場、昨今のコロナ禍におけるテレワークでもバルブ診断結果を把握することができる。
(2)「診断タイミングとレベル」課題解決
Dx Valve Cloud Serviceでは、Valstaffシステムより診断データを自動転送させるソフトウェアを開発した。そのソフトウェアは、随時更新する診断データを自動的にクラウドへ送信する。診断データを手動収集する時間を大幅に削減する。蓄積する診断データをクラウドで自動的に解析し、診断結果を作成する。
ユーザは、インターネット環境からアクセスする。最新の診断結果を「必要なトキに」Webアプリケーション上で確認することができるようになる。また、ユーザからの要求が多くなった「一次スクリーニング診断」、「詳細解析診断」のサービスレベルを同時に提供する。Webアプリケーションによるダッシュボード提供により、「必要なカタチで」診断結果の全体感(割合や傾向)を一目で把握できる。(図5)
6.Dx Valve Cloud Serviceのセキュリティについて
(1)片方向通信機器およびモバイル閉域網による高セキュリティ
プラントのIoT(Internet of Things)化にとって命題の一つにセキュリティの確保がある。本サービスでは、守るべき領域(外部からの侵入に対し、制御系を守る)を定め、3つの高信頼セキュリティを組み合わせている。(図6)
1つ目は、外部からの不正アクセスやウイルスの侵入を不可能とする" 片方向通信機器" を利用している。これは、物理的(内部配線)に片方向にしかデータを送信できない構造となっている。2つ目は、通信領域における不正アクセスに対する"通信事業者の閉域網"を利用している。これにより、現場からクラウド網は閉鎖領域を確立し、診断データをクラウド環境へ直接送信が可能になる。3つ目は、Webアプリケーションに対する不正ログイン・不正アクセスを防止する"ID・パスワード管理"に加えて、ユーザ環境からしかアクセスできない対策を講じている。
(2)クラウド環境の運用に関する認証取得
前項で述べた通りDx Valve Cloud Serviceでは、3つのセキュリティを確保している。それらに加え、情報セキュリティに関して高い信頼性を確保したクラウドサービスを提供するため、社内組織「クラウド運用センター」で運用・監視している。クラウド運用センターは、ISMS※2の国際規格認証を取得した社内組織である。(図7 参照)
工業プロセス市場では、IoT 化が進んでおり、情報セキュリティについての運用・監視をユーザから求められている。クラウド運用センターは、進化し続けるウイルスの標的型攻撃やランサムウェアなどの脅威からユーザの資産を守るために日々監視を行っている。
7.バルブ診断への評価・期待
ここまでは、Dx Valve Cloud Serviceについて述べてきたが、本章では、バルブ診断の実情について述べる。現在、多くのユーザで当社バルブ解析診断サービスの導入により、「バルブ診断結果により、バルブ動作不良を未然に発見し、生産設備に大きな影響を与えずに安定稼働させることができた」、「バルブ診断結果を参考にメンテナンスの最適化を進めている」等の事例も報告されている。(具体的な内容については、ユーザの重要なノウハウとして蓄積されているため、当社からの公表は控えさせていただく。)ユーザは、人員減少や膨大な業務があるにも関わらず、長年稼働し続けてきている生産設備の安全・安定操業を実現させるため、新しい取り組みとしてバルブ解析診断サービスを活用している。ユーザにとって今までにない取り組みは、手間と時間を要する。当社の強みである現場力(身近にあるサービス拠点)を最大限利用し、体験を得ることでバルブ診断の価値を実感している。導入当初はバルブ診断に懐疑的である場合も多いが、一度価値を実感すると、その経験を基に生産設備の安定化や保安力強化の実現に向けて歩んでいる。また、導入後の効果として、" バルブの異常が発見できた" ことに注目されることがある。しかしながら、診断データ上、" 何も異常がないこと" もバルブが正常に動作している"証"であり、生産設備の安定化には十分な成果であることを伝えたい。なお、バルブ診断で異常を早急に捉えたいとお考えのユーザには、プラントで稼働するバルブの中で経験上、不良が発生しやすいバルブを対象に導入することを薦めている。それにより、バルブ不良と診断結果との相関関係が表れ、体験しやすい。
8.おわりに
プラントで稼働するバルブは多種多様な環境で動作している。当社が提供する" バルブ診断技術"はそこで動作するバルブを診断した結果を、常に診断アルゴリズムにフィードバックし、改良している。それと同様に、"Dx Valve Cloud Service"においてもそのサービスを利用するユーザ環境は様々であり、ユーザが利用するコンテンツも多種多様である。ユーザと共に持続的に取り組み(サービス)を提供するために、さらなる改良を進め、ユーザの生産設備の安定化・保安力強化に貢献したいと考えている。
※1「Dx」は診断を意味する医療分野で、「Diagnosis(診断)」の略称。本サービスでは、バルブの健康状態を把握することによって、常にバルブを安全に使うことができるという意味を、この言葉に込めている。
※2「ISMS」とは、ISO/IEC27001:2013、JIS Q27001:2014に準拠した情報マネジメントシステムで、社会インフラとして不可欠なITシステムやネットワークを、標的型攻撃やランサムウェアなどによる脅威に対して適切にリスクアセスメントを実施し、企業における総合的な情報セキュリティを確保する仕組みのこと。
※Valstaff はアズビル㈱の商標である。
〈参考文献〉
1)青田、他:「プラントの安心・安全操業に貢献するバルブ解析診断サービス」、『Azbil Technical Review、2017』、2017 年4 月発行号、pp.20-26
2)福田、他:「安心・安全操業を実現するバルブ・ポジショナ」、『Azbil Technical Review、 2014』、2014年4 月発行号、pp.54-61
3)飯田、他:「状態基準保全を支援する調節弁診断アプリケーションの開発」、『Azbil Technical Review、2015』、2015 年4 月発行号、pp.3-10
引用元
- 計装 2021年3月号(有限会社 工業技術社)
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