配管技術研究協会誌 2022年秋・冬季号

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『生産設備の安定操業・保安力強化を支援するクラウド型バルブ解析診断サービス』に関しての記事が「配管技術研究協会誌 2022年秋・冬季号」に掲載されました。

報道記事:配管技術研究協会誌 2022年秋・冬季号

生産設備の安定操業・保安力強化を支援するクラウド型バルブ解析診断サービス

バルブの健全性診断をクラウドで実現する“Dx Valve Cloud Service”

1.はじめに

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記事(イメージ)

生産設備やボイラー等、各種設備に使用されるバルブは、それら設備のプロセス量(流量・圧力・温度・液位など)を調節する機器であり、プロセス制御では欠かすことのできない重要な機器である。特に生産設備に使用されるバルブは、生産設備ごとに異なったプロセス条件(高温や低温,高圧や低圧)で稼働しており、バルブが発端となるプロセス異常が発生すると生産設備の停止・品質低下や事故・災害につながる危険性を持ち合わせている。ユーザーは生産設備を安定操業させるため、バルブの自主的な検査やメンテナンスに取り組まれている。昨今では、設備老朽化に伴うメンテナンス量の増加や、優れた技能を持った保全員の引退などもあり、十分に技能を持つ人員を確保することが難しくなりつつある。それらの制約を補うために診断ツールを導入しメンテナンスノウハウの蓄積や業務効率化を目指している。

しかし診断ツールを導入してもそこから得られたバルブの稼働データを十分に活用できていないことが課題となっているケースが多くみられる。その原因は、診断ツールを活用する人員の確保ができないことや、診断ツールで得られた情報に対し、その内容を把握し対処するノウハウの不足によると考えられる。

そこで弊社では、バルブメーカーとして保有する豊富な知見を盛り込んだアルゴリズムで稼働データを解析し、ユーザーでの解析を不要にすることで、これら課題を解決するクラウド型バルブ解析診断サービス“Dx※1 Valve Cloud Service”を提供している。

Dx Valve Cloud Serviceは、クラウド環境でバルブの健全性診断結果を提供しており、本稿ではそのサービス内容を紹介する。

※1 「Dx」は医療分野で「Diagnosis(診断)」の略称で、診断を意味している。バルブの健全性(健康状態)を把握することによって、常にバルブを安全にお使いいただくことをこの言葉に込めている。

2.Dx Valve Cloud Serviceとは

Dx Valve Cloud Serviceは、弊社製スマート・バルブ・ポジショナ※2(以下、スマートポジショナ)で計測・演算されるバルブの作動に関わる様々なパラメータを、調節弁メンテナンスサポートシステムValstaff™(以下、Valstaff)で収集し、Valstaffに蓄積されたバルブ稼働データを、弊社の保有する知見をもとに作り上げたバルブ稼働データ解析技術で解析し、バルブの健全性を評価した結果をユーザーへ提供するサービスである。

※2 形AVP202,302,307及び形AVP701,702

それにより、診断ツールから得られたバルブ稼働データを、ユーザーが解析し、異常有無を診断すること無く、バルブ異常の早期発見や、異常進行予測を確認することが可能となり、生産設備の安定化や保安力強化に貢献する。

 

Dx Valve Cloud Serviceのバルブ種別による対応範囲は、グローブ弁、複座弁、ケージ弁、ダイアフラム弁、偏心軸回転弁、バタフライ弁、ボール弁の計7種類と、プロセス制御で使用される大半のバルブをカバーしている。これらバルブの診断可能事象を以下①~⑦に示す。

① スティックスリップ(固着・かじり)

② 内弁損傷、詰まり

③ ポジショナへの一定入力値に対するハンチング動作

④ 鈍化現象(固着・かじり発生前の不調状態)

⑤ 流体差圧に対する性能不足

⑥ 供給空気圧力不足

⑦ ポジショナ空気回路診断

※④~⑦については、形AVP701、702で対応

なお、これら診断事象を元に健全性を評価した結果は、下記4段階で大別してユーザーに提供され、これらの結果に至った詳細な診断情報についても確認可能である。

開放推奨:     オフライン診断※および整備の計画を推奨

詳細確認:     オフライン診断※の実施を推奨

経過観察:     今後の動向に注意

所見なし:     特に処置の必要なし

※ オフライン診断

バルブをオフライン(装置に影響を与えない)状態にして実施するテスト。バルブにステップ変化を与え、ポジショナの応答状態を記録するテストや、バルブを全閉→全開→全閉と変化させ、トラベルと空気圧の関係を記録するテスト(形AVP701,702のみ)がある。

Dx Valve Cloud ServiceはValstaffに蓄積されたバルブ稼働データをクラウドに自動送信、解析することにより、ユーザーは「必要なトキに」「必要なカタチで」「必要なシーンで」、診断結果をクラウド環境で確認することができる。(図2)

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図2

3.Dx Valve Cloud Serviceによるバルブ診断

Dx Valve Cloud ServiceはWEBコンテンツを利用してユーザーに診断結果を提供している。WEBコンテンツで提供される「ダッシュボード」、「診断結果一覧」、「診断結果詳細」、「トレンドデータ」の概要をそれぞれ説明する。

3.1 ダッシュボード

ダッシュボード内の総合判定最新(図3)は全バルブ診断台数における最新の各判定割合を示している。また、総合判定推移(図4)は、各判定結果の過去から現在の件数推移を示している。この2つの図で、ユーザーは診断対象バルブ全体の状況把握と、その状態変化の推移が一目で確認できる。

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図3
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図4

3.2 診断結果一覧

診断結果一覧(図5)は異常傾向にあるバルブを抽出し、プラント内に存在する数百台のバルブの中から、各判定結果「開放推奨」「詳細確認」「経過観察」「良好」を提示し、注視すべきバルブの把握を可能としている。

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図5

 3.3 診断結果詳細

注視すべきバルブは診断結果詳細(図6)により、バルブのより詳細な状態把握を可能にしている。各部位の判定結果「開放推奨」「詳細確認」「経過観察」「良好」を色別に表示し、視覚的に把握可能としており、判定結果の内容も所見欄に記載される。これら異常発生事象の詳細を把握することで、装置運転に対する影響度を推定し、具体的な整備時期や必要交換部品検討を含めたメンテナンス計画が立案に役立てることができる。

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図6

なお、診断結果詳細の根拠となる各パラメータ等の情報はレポート(図7)をダウンロードすることで確認できる。

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図7

 3.4 トレンドデータ

診断結果詳細で把握した状況について、その発生時期の状態をトレンドデータ(図8)で確認する事も可能である。確認可能なパラメータは、ポジショナの入力値、実開度、温度、EPM(電/空変換器)駆動信号の4種類となっている。

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図8

4.クラウドサービスのセキュリティ

生産設備で使用するクラウドサービスの必要要求事項としてセキュリティの確保があるが、本サービスでは、守るべき領域(外部からの侵入に対し、制御系を守る)を定め、片方向通信機器、通信事業者の閉域網、ID・パスワード管理で高信頼セキリティを実現している。(図9)

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図9

また、情報セキュリティに関しても高い信頼性を確保したクラウドサービスを提供するため、ISMS※3及びISMSクラウドセキュリティ※4の国際規格認証を取得した弊社組織「クラウド運用センター」で運用・監視を行っている。

※3ISMSとは、ISO/IEC27001:2013、JIS Q 27001:2014に準拠した情報マネジメントシステムで、社会インフラとして不可欠なITシステムやネットワークを、標的型攻撃やランサムウェアなどによる脅威に対して適切にリスクアセスメントを実施し、企業における総合的な情報セキュリティを確保するしくみのこと。

※4ISMSクラウドセキュリティとは、ISO/IEC27001:2013の取得を前提に、クラウドサービスに関する情報セキュリティ管理策のガイドライン規格で、より安全なクラウド環境を構築し、セキュリティ問題のリスクを軽減する基準。

5.今後の展望

現在、本サービスの利用ユーザーは保全部門の方が殆どだが、このサービスを製造部門の方にもご利用いただくことで、より一層の生産設備安定化に貢献できると考えている。そこで、診断結果をより判り易くするためのWEBコンテンツ充実や、診断結果(特に異常時)のメール通知機能等を充実させることを検討している。また、最近では空気圧センサを搭載したスマート・バルブ・ポジショナ形AVP701、702での診断知見が蓄積されつつあり、より高精度な診断を提供できると確信している。

 

さらに、クラウド環境を活用し、診断結果とバルブに関する運用情報(整備履歴やトラブル事象など)を一元管理することで、ユーザーのバルブ運用管理の更なる効率化、高度化に貢献したいと考えている。そして、海外に関しても、国内マザープラントと海外コピープラントで稼働しているバルブの状態を国内にいながらにして比較・分析・評価ができるようにすることで、ユーザーが海外コピープラントへの支援を柔軟に行える環境を整え、国内外問わず弊社のバルブ診断技術をユーザーに提供し、海外の生産設備の安全性向上・保安力の強化にも貢献していきたい。

6.おわりに

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な感染拡大に伴い、感染防止の観点から保全担当者の製造現場への入出制限が行われ、保全担当者にもテレワークが推奨されるなど、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進と相まって、保全スタイルも大きく様変わりしてきている。Dx Valve Cloud Serviceでは、新たな保全スタイルの提案により、バルブに起因となるトラブルの未然防止に努め、顧客の生産設備の安全性向上・保安力の強化に貢献したい。

  • Valstaffは、アズビル株式会社の商標です。

引用元