月刊「計装」2021年9月号

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『プラントのDXに貢献するアセット管理システムの役割とメリット』に関しての記事が月刊「計装」に掲載されました。

報道記事:月刊誌「計装」 2021年9月号

プラントのDXに貢献するアセット管理システムの役割とメリット

1.はじめに

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記事(イメージ)

2010年頃から、国内においても、HART通信に対応した現場計装機器(以下現場機器)の採用が進み始めた。特に2015年以降はその傾向が加速したと感じている。2015年と言えば、ドイツでReference Architecture Model Industrie 4.0(通称RAMI4.0)を発行した時期であり、全世界でスマートファクトリやDX(デジタルトランスフォーメーション)が語られるようになった時期である。

国内のプロセス産業における計装保全の現場では、近い将来のプラントのデジタル化に向けて、これからの現場機器の採用は老朽化更新も含めてHART通信に対応した現場機器にすることに方針を決め、導入を進めている事業所が増えてきている結果だと考える。しかしながら、導入したHART機器の“HART通信”を活用した本当の価値を享受できていないプラントもあると推察する。当社では、HART通信により現場機器が持っている情報を使って何をするかが、ユーザの価値を大きく左右すると考えている。つまり、それはアセット管理システムの提供する価値そのものにほかならない。

本稿では、HART機器が持つ情報を有効に活用すると、どのような価値があるのかを、当社のFDT技術を搭載したアセット管理システムである「InnovativeField Organizer」の特長とメリットを通して紹介した後、InnovativeField OrganizerでのFDT技術の適用について紹介する。

2.「InnovativeField Organizer」の特長とメリット

当社のアセット管理システムInnovativeField Organizerの最大の特長は、接続されている全てのHART機器と毎秒常時通信していることである。この特長を活かしてHARTの価値を最大限に引き出し、メンテナンスの最適化に貢献する当社の描くデジタルフィールド像を示す。(図1)

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図1 当社が描くデジタルフィールド(記事より)

 

図1において、InnovativeField Organizerは大きく2つの機能を担っている。1つ目は現場機器のアセット管理であり、2つ目は、InnovativeField Organizer以外のシステムがHART機器の情報を有効活用するためのHART情報サーバとしての機能である。

アセット管理としては、プラントの定期修繕(以下定修)中に現場機器や調節弁に対して人海戦術で実施しているチェック・検査を超効率化することで、今回の定修では整備・調整を予定していない機器や調節弁も含めて全台数をチェック・検査することを可能とし、従来気づくことができなかった不調を見つけ出し整備することが可能となる。たとえば、定修期間の早い段階で調節弁を全数検査することにより、定修終盤でのループチェックで不具合が見つかり緊急整備対応しなければならない事態を極力削減できる。圧力計のつながるAIループのチェックや調節弁の作動検査では、最大で95%の工数削減が報告されている。

また、プラントが運転中の場合には、全ての現場機器を毎秒監視し、機器の中でリアルタイムに実行されている自己診断結果である機器ステータスと機器が保持する最大8個までのダイナミックパラメータを毎秒監視することにより、現場機器の不調を早期に検知することに貢献する。

2000年代に欧米で盛んに議論されたアラートマネジメントの考え方に基づけば、アラームは正常な状態と異常な状態の境界線上に設定するとされている。だが、現場機器や調節弁はプラントの運転が異常となるずっと以前から不調が発生し、少しずつその症状が進行していることが多い。こうしたことを考えると、より早い段階で不調に気付くことができれば、影響が小さい段階での対応や、運転計画に組み入れての対応が可能となり、突発トラブルや計画外停止の削減に貢献できると考えている。(図2)

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図2 プラント運転中のInnovativeField Organizerの役割(記事より)

HART情報サーバとしては、大きく3つの役割を持っている。

1つ目は、当社の推進するクラウド型バルブ解析診断サービス「Dx Valve Cloud Service」へのバルブ稼働データを送信するエッジサーバとしての役割である。Dx Valve Cloud Serviceとは、プラントや工場で稼働するバルブの健康状態をインターネット上のクラウドサービスで可視化するバルブの健康診断サービスである。

なお、詳しい説明は省くが、外部からの不正アクセスやコンピュータウイルスの侵入を防ぐためにクラウドへのデータ送信には、内部構造が物理的に一方向にしか通信できない片方向通信機器の採用と通信事業者の専用閉域網を利用することにより、最高レベルのセキュリティを確保している。

2つ目の役割は、従来のアナログ4-20mA信号ではDCSに入力されていない現場機器が保持している運転に有益なHART機器データをDCSオペレーションで活用可能とすることである。InnovativeField Organizerでは接続している全てのHART機器から最大8個までの変数を毎秒収集しており、これらの変数をDCSで活用することが可能となる。(図3)

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図3 HART情報サーバとしてのInnovativeField Organizer役割(記事より)

コリオリ式質量流量計の密度をDCSでオペレータが監視できることで組成の変化を把握しながらの運転が行える。また、HART通信で取得できるデータは、DCSへの4-20mA伝送レンジ範囲外でも現場計器の測定レンジ範囲内であればデータ値を監視できる。装置スタート直後などDCSではBAD PVやIOPステータス時にも温度やレベルが監視可能となる。調節弁では、実開度をPIDフェースプレートにDCS出力の針と並べて表示可能となる。実開度や電空変換駆動信号以外に、空気圧センサを搭載した当社のスマート・バルブ・ポジショナ「700シリーズ」では、供給空気圧、操作器への出力空気圧、ノズル背圧などもDCSで監視可能となる。

3つ目の役割は、HART機器から毎秒収集している最大8個までのHART変数をプラント情報管理システムPIMSに送信するデータサーバとしての役割である。PIMSではDCSからのプロセスデータに加え、InnovativeField OrganizerからのHART機器データを一元管理することが可能となる。PIMSデータを利用した性状推定やプロセス異常予兆・設備異常予兆などで、説明変数不足によりモデルの精度が上がらなかった課題を解決する可能性が十分にあると考えている。HART機器のデータを取り込むだけでセンサの数は今のままでも、データ量としては少なくとも今までの数倍のビッグデータを構築できることになる。

またInnovativeField Organizerでは、OPC Classicだけでなく、PIMSとの間にファイアウォールが存在する場合も想定してOPC UAにも対応している。

3.FDT技術(機器DTM)の活用

ここまで、InnovativeField Organizerの特長と特長を活用したメリットを説明してきたが、ここではInnovativeField OrganizerでどのようにFDT技術を活用しているか説明する。

InnovativeField OrganizerはFDTフレームであるので、機器ベンダが提供している機器DTMを使用して各社の機器を調整設定することができる。ある化学プラントでは運転中の製造課からの計器レンジ変更依頼にも、ループチェックまで含めて迅速に対応できていると聞いている。また、各機器ベンダの機器の調整設定以外に、InnovativeField Organizerでは機器DTMを使用して機器パラメータの台帳管理を超効率化している例もある。ある化学会社の事例を紹介する。

この化学プラントでは、4社の現場計器が合計で115台使用されている。プラントスタート前に現場機器に設定されているパラメータを吸い上げようとすると、今まであれば、ハンドヘルド・コミュニケータを持ち現場を回りながらパラメータを吸い上げ、事務所に戻りプリントアウトし、台帳にまとめる管理を行っていた。115台の機器を行うと7~8工数を要する作業であった。

InnovativeField Organizerを活用すると、パラメータ収集する機器をリストから選択し実行ボタンを押すだけで、パラメータ収集から台帳管理までを自動で実行し、約1時間で完了した。この間、誰か人が張り付いている必要はない。従来、人海戦術で実施していた作業を超効率化したアセット管理InnovativeField Organizerとしての事例である。(図4)

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図4 機器DTMを活用した機器パラメータの台帳管理(記事より)

4.おわりに

HART機器は、2000年~2010年の10年間にプラントの新設が多かった海外において、機器ベンダごとのコミュニケータを必要とせず、1台のコミュニケータで全ての機器が調整設定できることで一気に活用が拡がった。1台でどこのベンダの機器も調整できるという価値は確かに大きいが、HARTのデジタル双方向通信の価値を最大限引き出しているかというと疑問が残る。また、国内のプロセス産業において同じような新設の機会は、たまにあるかも知れないが多くはないことを考えると、HART機器を導入し価値を享受しようとするとアセット管理システムの活用が不可欠だと考える。

本稿では、当社アズビルが目指すデジタルフィールド像とそのキーとなるInnovativeField Organizerの特長とメリット、そしてInnovativeField OrganizerシステムでFDT技術をどのように顧客メリットにつなげているかについて紹介した。HART機器を採用する方針は決まったが、活用方法はこれから検討しようとしている方に、どのように活用するとどのようなメリットが得られるのか、本稿が参考になるようであれば幸いである。

注)

  • FDT:Field Device Tool
  • DTM:Device Type Manager
  • OPC UA:OPC Unified Architecture
  • HARTは、FieldComm Groupの商標である。
  • InnovativeField Organizer、ACTMoS、BiG EYES、AVPは、アズビル㈱の商標または登録商標である。

〈参考文献〉 

1)曽禰寛純:「IoT技術活用によるスマート保安《熟練運転員の叡智を継承・超越》」、『平成29年1月27日未来投資会議説明資料 資料2』

2)鈴木啓生:「プラントの安全・安定操業に貢献する新型ポジショナ」、『計装』、2014年5月号

3)亀井宏和:「HART機器の真価を引き出す機器管理システム」、『計測技術』、2015年10月号

4)山﨑史明:「生産設備の安定化・保安力強化に向けたクラウド型バルブ解析診断サービス」、『計装』、2021年3月号

 引用元

  • 計装 2021年9月号(有限会社 工業技術社)